ドングリが美味しい季節になりました

 
残暑が過ぎ、秋の訪れを感じる季節、
「どんぐりを拾いに行かない?」
と、呼びかけると、子どもたちは、大喜びだ。
「うん、行こう!」
どんぐりを拾い集めるための袋をつかみ、飛び出していく。
「美味しそうなどんぐりがあるよ!」
高らかな声が、草原に鳴り響く。
縄文時代に、こんな景色があったのだろうかと、小金井市内の縄文遺跡の立て札を眺めては想像の翼を広げないわけでもないのだが、これは間違いなく、現代に暮らす我が家の風景だ。 
 
小金井市内は、公園や路上、大学構内などにも、至るところにどんぐりは落ちているのだが、友だちと落ち合ったのは、やっぱり野川。行き慣れた、武蔵野公園。
「きれいなスダジイを見つけたよ!」
娘が得意気にみんなに見せて回り、そしてかじった。割れた殻の中身を、口に放り込んだ。
「甘くて美味しい!」
 むしゃむしゃと、生の落ちたて新鮮などんぐりを食べる娘は、決してペットの猿ではない。令和に育つ現代人だ。
 微笑ましく見守る母親も、ちゃんと子どもたちのお腹を心配しているので、
「ドングリの種類には気を付けてね!見分けがつかないドングリは食べないようにね!」
と、声を掛けている。 
 
(左がマテバシイ、右がスダジイ) 
 
食べるのにおススメなのは、スダジイとマテバシイ。
スダジイは、1粒が小さくて、頭のトンガリが斜めを向いているのが特徴だ。ハカマはすっぽりと実を包み込むようについている。
拾ったスダジイは、そのまま割って食べて美味しいので、秋の行楽シーズンにスダジイの森にピクニックに行けば、おやつは現地調達できるかもしれない。
マテバシイは、ちょっと大粒のどんぐりだ。ちょっと太くて、ちょっと縦長で、1粒で大分美味しい。拾ったそのままでも美味しいけれど、ちょっと大味な感じは否めないので、煎って食すのもいいだろう。
ご存知とは思うが、どんぐりはどれでも簡単に食べられるわけではない。むしろ、一般的には食べものじゃない。縄文の昔には、食糧が少ないから、手間を掛けて何とか食べていたらしいね、というイメージだろう。
実際に、その多くは灰汁が強いので、かなり面倒な手間を掛けて灰汁抜きしなければ、食べるには適さない。どんぐりの見分けに自信のない方は、公園などで樹木名の札を頼りにすると分かりやすいだろう。 
 
 
「マテバシイと、スダジイを、いっぱい拾い集めておいてね!」
声を掛けると、子どもたちからは、はーい!といいお返事。
冬眠に備えて、秋のうちに食料を貯蔵しておかなきゃね!・・・というのはリスの話で、我々はこれからキッチンに向かうのである。 
 
今日のおやつは、子どもにも大人にも大人気!《どんぐりクッキー》と《どんぐりビスケット》。どこの星の子どもたちと大人たちなんだろう!
まずは、拾ってきたどんぐりを洗うところから始まる。大きめのボウルにたっぷり水を入れて、ガシャガシャと洗いながら、浮かんでいるどんぐりは食べられないので捨てる。
捨てると子どもたちに怒られる。
「工作に使うから、とっといてよ!」
「ごっこ遊びにも使うよ!」
おう、食い意地しかない母は、そんな使い道をすっかり忘れていたよ。
どんぐり独楽(こま)、クリスマスリースの飾りなど、どんぐりは工作の材料としても優秀だ。と、もっともらしく慌てて書き加えて、お料理に戻る。 
 
水に沈んだどんぐりを取り出したら、ペンチで殻割りだ。殻を割って、中身を取り出す。
「200gくらいあればいいかなぁ?」
なんて気軽に言うと、莫大などんぐりの殻割りが待っている。「子どもたちの出番!」って、なんて魅惑的な響きだろう。
中身を取り出したら、粉にする。
すり鉢とすりこ木で、ゴリゴリしてもいい。すり鉢がなければ、ビニール袋に入れて、上からガンガンと粉砕してもいい。ストレスフルな学校生活を送る子どもたちに、思いっきり、文字通りの袋叩きをさせてあげるといい。 
 
 
そんな手作りの苦労をひとしきり味わったところで、フードプロセッサー登場!一瞬でどんぐり粉が出来上がる。
あとは、クッキーやビスケットのレシピを見て、小麦粉の2割~5割ほどを、お好みでどんぐり粉に置き換えて作れば完成だ。 
 

どんぐりって美味しいよ、どんぐりって美味しいね、と、子どもと大人で奪い合って、苦労して作った時間の割に、一瞬で消えていくのだが、
「この味、どう表現したらいいんだろうね」
「ナッツ系の味だよね」
「でも、くるみやアーモンドとは似てないよね」
「ナッツ系だけど、似ているナッツが思いつかない」
「没個性的な、特徴のないナッツ?」 
「食べた人だけが分かる味だと思うよ」 
 
結論:食べた人だけが分かる味。 
 
表現力の限界を迎えたので、筆を置くことにする。
どんぐりを食べるのは、材料費をケチったんじゃなくて、美味しいからなんだよ!とだけ、最後に叫んでおきたい。 
 
※参考レシピ
どんぐりクッキー
(材料)
無塩バター 100g
砂糖 100g
小麦粉 140g 
どんぐり粉 60g
(作り方)
上記の材料を全て混ぜ、予熱したオーブンに入れ、180度で15分焼く。
 
 
(2022年11月 食い意地で出来てる母A)

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